某ウェブ雑誌の取材依頼があり、業務委託の面貸し美容師の確定申告についてお答えしました。
取材担当者が言うには、今年は「業務委託元年」と言われるほど、業務委託が増えているようです。
確かに、雇用契約ではなく業務委託契約が増えている実感はありますが、それがそのまま良いことなのかと、ふと疑問に思ったりします。
なぜなら、業務委託はメリットがある反面、相応のリスクも伴うからです。

面貸し美容師の身分は経営者
業務委託の面貸し美容師の身分は、誰かの下で働く労働者ではなく、個人事業主で経営者という扱いになります。
そのため、もらうものは給料ではなく報酬となり、年末調整してくれるわけではないので自分で確定申告しなければなりません。
また、労働者であれば、経営者が本人に代わって手続きして加入する労災保険や雇用保険はありません。なぜなら自分が経営者で社長なので、自分のことは自分で対処しなければならないからです。
そのため、通勤中や業務中の事故があっても労災で保障されることはありませんし、仕事を辞めたりクビになっても、雇用保険をもらうことはできません。
面貸し美容師のメリットは本当にメリットなのか?
面貸し美容師は、歩合制で収入が多く、勤務形態が自由で、源泉所得税や社会保険料の天引きがなく手取り額が多いという。メリットが強調されることがあります。
しかし、これは裏を返すと、税金の申告や、保険や年金といった保障をすべて自分で手続きしなければならないということでもあります。
自己責任といえば、それまでですが、手軽さというメリットのために、税金の申告や社会保険の手続きの手間が増え、さらに日本の手厚い社会保障制度が受けられないのはもったいないなぁと思ったりします。
業務委託の報酬は給与所得控除が受けられない
業務委託で受け取る報酬は、雇用契約でもらう給与所得と違い「雑所得」または「事業所得」で所得税を計算します。
そのため、給与所得で収入から控除できる給与所得控除(みなし経費)が使えず、原則実費で所得税を計算することになります。
この給与所得控除は、計算してみるとわかりますが、実費よりも多いということがわかります。(多すぎるので改正される議論もあります)
よくサラリーマンは、税金が取られすぎだと嘆いていますが、実際は実費よりも多くの経費が認められて個人事業主より優遇されている面があります。
面貸し美容師として給料ではなく報酬として受け取ることで、源泉徴収がなく手取り額が増えたとしても、確定申告で3月に納付する税金は、逆に増えてしまう可能性があることもあります。
経営者の都合
経営者にとっても雇用ではなく業務委託にすることで色々な責任から開放されます。
まず、給与計算や年末調整といった税務上の事務作業が不要になりますし、雇用保険や健康保険、厚生年金の加入手続きからも開放されます。
また、労働災害や損害賠償といった労働上の責任も、面貸し美容師の責任になる可能性があります。
さらに、消費税の課税非課税も契約形態によって異なるため、節税目的もあるかもしれません。
まとめ
実態は労働者でも、名義上は個人事業となる面貸し美容師のリスクについて紹介しました。
以前は、労働者に近い個人事業主といえば、保険の外交員や集金人、電気メーター等の検針員が中心でしたが、最近では、働き方の多様化で転売や個人宅配(ウーバーイーツなども含む)も個人事業主の扱いとなってきました。
コンビニのフランチャイズオーナーもほぼ労働者なのに、身分は経営者です。
中には、会社や経営者の都合で業務委託の扱いになっているケースもあるため、今後社会問題になると個人的に予想しています。