年間約130万人の方が亡くなり、そのうち相続税の課税対象となる人は約10万人(約8%)となっています。(国税庁ホームページのH28統計データより)
高齢者の中には老夫婦だけの世帯も多く「老老介護」が社会問題になっています。
そんな老老介護の世帯で相続が発生した場合に、相続税の申告や、相続登記・名義変更などの手続きが、高齢の相続人自身ではできないケースがありますが、このような問題を「老老介護」ならぬ「老老相続」と勝手に呼んでいます。
そこで、今後ますます増えることが予想される「老老相続」の原因と対策について考えてみました。
老老相続が増える原因
まず、老老相続の問題点として、手続きしないことによる不利益が知らず知らずのうちに増えていることです。
相続税の申告をしないことで、無申告や税金の滞納が発生します。また相続登記や名義変更をしないことで、不動産の売買ができないケースや、預金の引き出しができないケースが発生する可能性があります。
このような問題が生じる原因としては、
1.平均寿命の向上
平均寿命の向上によって、相続人が高齢となるケースが増えてきたことが考えられます。
申告や名義変更などの手続きは、税理士や司法書士などのプロでないとわからないことも多く、特に高齢者にとっては大変な作業です。
また、手続きにはさまざまな場所(税務署や法務局、役所、金融機関など)へ行く必要があり、平均寿命が伸びることにより自由に歩けない相続人が出てくることが予想されます。
2.相続税の基礎控除額の低下
相続税の申告に関しては、相続税の基礎控除が下がったことも考えられます。
相続財産の合計額が基礎控除額以下であれば相続税の申告は原則必要ありませんが、平成27年1月1日以降に発生した相続については、改正で基礎控除額※が4割ほど下がったために、相続税の申告が必要な人が増えました。
平成27年1月1日以降の相続税の基礎控除額
3,000万円+600万円×法定相続人の数
本来、富裕層に限られていた相続税の申告が、中間層にまで拡大されたことで、税金や手続きに詳しくない世帯まで申告業務の必要に迫られたことが考えられます。
3.核家族化
老老介護の原因の一つに、子どもが独立して別居するようになったことがありますが、老老相続でも子どもの相続人が遠方に住んでいることで、手続きができないケースが考えられます。
地方に住んでいる高齢世帯で相続が発生しても、子どもが都会で暮らしているケースでは、子どもの仕事が忙しく相続税の申告や、名義変更に必要な書類が集められないことが考えられます。
4.相談相手がいない
老老介護の世帯で相続が発生するケースでは、子どもの相続人が遠方にいると、残された高齢の相続人は、誰にも相談することが出来ず老老相続に発展するケースが考えられます。
本来であれば、近くの親族や専門家の助けが必要ですが、相談相手がいないケースでは、時間だけが流れて実際に問題が生じたタイミンで発覚することが考えられます。
老老相続の対策
1.生前の対策
まず生前の対策としては、相続対策をしておくことが考えられます。代表的なものだと次のような対策が考えられます。
- 遺言書を書いておく・・・相続財産を相続させる人をあらかじめ決めておく
- 成年後見人・・・認知症などで意思決定ができない場合の代理人を決めておく
- 信託の活用・・・信託財産と相続後の受益者を設定しておく
これらの対策には相続に関する専門家に相談する必要があります。身近なところだと市区町村役場や税理士会や弁護士会など相談窓口や、信託銀行でも相談会を開催しています。
2.相続発生後の対策
実際に相続が発生してしまったケースでは、やはり専門家に相談してみることです。具体的に相続で必要となる手続きを確認する必要があります。
また専門家に相談することに抵抗がある場合は、相続人でなくても身近な親族に聞いてみると良いかもしれません。
何もしないまま別の相続が発生してしまうと、さらに問題が大きくなるので注意が必要です。
まとめ
高齢化で増えることが予想される老老相続について、原因と対策を考えてみました。
このような記事を書いたのは、税理士の無料相談をしていると、高齢者が相続税の申告について相談に来るケースが増えているためです。
長男や長女の相続人が相談に来るならわかりますが、高齢夫婦のうち遺された相続人が自ら相談に来るのは、責任感が強いなぁ。と思いつつ大変だなぁ。と思ったからです。
公平という建前のもとで基礎控除額下げた弊害が出てるなぁと実感。