宮部みゆき『希望荘』を読みました。
本作は、杉村三郎という普通過ぎる主人公が、身近なところで起きる事件を解決する現代ミステリーです。
『杉村三郎シリーズ』と呼ばれるシリーズもので、本作は古い順から『誰か』『名もなき毒』『ペテロの葬列』に続く4作目になります。
これまでの作品はすべて長編でしたが、本作については4つの事件からなる短編集です。
宮部みゆき作品は、どれも丁寧な文章で読みやすいので個人的に大好きです。ペテロの葬列は読んでいませんが、これまでの概略が丁寧に描かれているので、本作だけでも楽しむことができました。
宮部みゆき作品は長くて苦手という人も、本作はサクサク読めると思うのでオススメです。
あらすじ&感想(ネタバレなし)
これまでの杉村三郎さんの人生を簡単に紹介すると以下のような感じです。
主人公の杉村三郎は、小さい出版社で編集者として勤務し、普通に恋愛して普通の結婚をしました。
しかし結婚相手が実は、日本屈指の大企業「今多コンツェルン」の令嬢でした。
結婚を機に出版社を辞め今多コンツェルンに転職し、幸せな生活を過ごすことになります。
しかし、ある事件(『ペテロの葬列』)をきっかけに、離婚することになります。
その後、やはりある事件(『希望荘』)をきっかけに、探偵業を開業することになります。
本作では離婚した杉村氏が、探偵業を開業するまでの様子が4つの作品を通して描かれています。
探偵事務所としてはじめて依頼される仕事となる『聖域』
人の過去の疑惑を探す仕事から新しい事実が浮き彫りとなる『希望荘』
離婚してから探偵業を始めるまでの空白期間に起きた事件『砂男』
編集者とかけ離れた探偵業を始める理由が描かれる『二重身(ドッペルゲンガー)』
どの作品も出てくる人物が全て普通の人なのに、心理描写が丁寧なので、全員のキャラクターがすんなり頭に入ってきます。
また、きれいな文章なので、平易でありながら小説としてのおもしろさもあって、読んでいて気持ちがいい作品です。
ただ一つ納得出来ないのが、杉村探偵事務所の経営や収支です。
杉村探偵の人が良すぎて、探偵事務所として経営が成り立っていないのではないかと不安になります。
手付金や報酬を取らなかったり、取っても5千円だけだったり、善意だけで仕事を引き受けます。
一応、同業の探偵事務所から仕事をもらっているので生活は問題ないという描写がありますが、その同業の探偵事務所も道楽半分で経営感覚がなさそうで不安になります。
まあその辺は、小説だからリアリティがなくても良いのですが、職業柄なのか経営状況に注目してしまいました。