大崎善生「将棋の子」を読みました。
同氏の作品を読むのは「聖の青春」に続き2作目ですが、前作と同様将棋をテーマにした作品です。
聖の青春が村山聖という一人の棋士を主人公にした話に対して、将棋の子は奨励会というプロになるための養成機関の中で生きる若い棋士達の話です。
棋士たちに迫る現実の壁に心が揺さぶられる作品でした。将棋のルールや定石などの知識は必要なく文体も易しいので、将来に不安を抱える高校生や大学生に読んで欲しい一冊です。また若い頃に夢に挑戦したことがある大人にもオススメの一冊です。
あらすじ&感想 ※ネタバレなし
主人公は奨励会三段リーグの若い棋士たちですが、話は著者である大崎善生氏の目線で進んでいきます。
将棋連盟の編集部に勤務する大崎氏のもとに、元奨励会員の成田英二氏から連絡先変更のメモが届くのですが、その連絡先は自宅ではなく札幌の将棋センターになっており、そこに成田氏の窮状を察知した大崎氏が会いに行くという展開になります。
その道中に回想録のように四段(プロ棋士)になれず奨励会を退会した棋士たちの話が展開されていきます。
税理士試験と奨励会の似ているけれど違うところ
本作を読んだ感想ですが、プロを目指す棋士を税理士試験に挑戦していた頃の自分と重ねて胸が苦しくなりました。
奨励会三段リーグはプロ棋士となるための養成機関で、昇級昇段を重ねて四段になると、プロ棋士となり収入が得られますが、年齢制限と人数制限という壁があり、四段になれず退会を余儀なくされる棋士も大勢います。
プロになれる難易度はよくわかりませんが、確率だと5人に1人(20%)と言われていますが、奨励会に入会する時点で将棋の才能がある選ばれた人たちであることを考えると、そこからさらに競争で勝ち抜くことは容易でないことがよくわかります。
かたや税理士試験は、1科目の合格率は10%前後で、5科目全て揃える難易度は2%と言われており同じように厳しい試験で狭き門ですが、年齢制限がないため自分の根気が続く限り受験できるところが奨励会と異なります。
また、税理士試験の受験勉強は税法や会計なので、たとえ挫折したとしてもその後のキャリアや就職に活かすことができますが、奨励会の中で学んだ将棋の技術は、退会すると活かす場所が限られます。
そのため、本作でも元奨励会員の大会後の人生が描かれていますが、将棋の世界から別の世界に進む人や、将棋の知識を活かした職業に就く人などさまざまです。棋士から司法書士という難関試験に合格した人がいるなんて驚きでした。
本作を読んでわかるのは、「努力が必ず報われるわけではない」ということですが、だからこそ感動やドラマが生まれるのかもしれません。
また、プロ棋士を目指す人を応援する家族や友人たちも描かれており、才能だけでプロ棋士になれないことが良くわかります。税理士試験の頃に支えてもらった家族を思い出して、感謝の気持ちは忘れてはいけないなぁ。と再確認した作品になりました。