姫野カオルコ『昭和の犬』を読みました。
第150回の直木賞を受賞した作品です。同氏の作品は読んだことはなかったのですが、直木賞を受賞した作品ということで手に取ってみました。
短編のような長編で、文章も読みやすくて直木賞というより芥川賞寄りの作品かなと思いましたが、犬好きの自分としては楽しく読めました。
昭和30年代から平成の初期までの日常生活が描かれていて、その時代の固有名詞が登場するため、その時代を生きてきた団塊の世代の人には懐かしく思える作品かもしれません。自分にはピンとこない言葉も多かったですが。
あらすじ&感想 ※ネタバレなし
話は戦後の昭和30年代から始まります。
幼児のイク(主人公)が、ロシアの収容所から帰還した父親とその母親と同居するところから始まります。
一家はトン(東)という犬とシャア(西)という猫を飼っていますが、当時のペットの概念は現代と違い、放し飼いが基本で、家にいれば餌を与えしばらく家に帰ってこないこともあります。去勢をしていない犬もいます。
その後、イクが幼児から小学生、中学生、大学生、社会人、中年女性へと成長する様子が、当時の時代背景とともに短編形式で描かれます。そのエピソードごとに犬が必ず登場しますが、その犬はトンとシャアだけでなく、近所の犬や下宿先の犬、散歩のお爺さんが連れている犬などさまざまです。
感想としては、文章がとても美しいということと、読んでいていて気持ちのよい作品でした。イクの人生を通した昭和の日常生活がとても良くわかりました。
昭和から平成にかけての高度経済成長時代の頃の物語で、現在から振り返るととても良い時代だったと語られることが多い時代ですが、実際に生きている人は淡々と日常生活をおくっていたことや、楽しいことだけではなく悲しいことやつらいことも当然あったんだろうなと思える作品です。
また、少し変わっているイクの性格や、でも優しさにあふれているところも楽しく読めました。
男女に関係なく昭和初期を生きてきた団塊の世代や、犬好きの人にオススメの一冊です。
なお、文庫本のあとがきには、著者自身による解説が載っていますが、小説のプロットやテクニックが紹介されていて、細かいところまで練り込んで小説って出来ているんだなぁ。と感心してしまいました。やっぱり小説家はすごいです。